病床にあった正岡子規が、見舞いに訪れた友人に「あなたにとって世界は広い。わたしにとって世界は深い」と言ったと聞いたことがあります。健康な人は広い世界をあちこち見て歩くだろうが、病気のわたしは自分の庭をじっくりと見る。一輪の花の美しさに驚き、小さな虫の生命に感動しながら、世界の奥深さを味わって日々を過ごすというのです。
遠くに出かけなくても、身近なところに感動はいくらでもある。今回、展示される作品は、わたしたちにそのことを教えてくれるように思います。たとえ小さな庭でも、そこには数えきれないほどの感動が隠されているのです。芸術家たちの研ぎ澄まされた感性を通してそのことに気づくとき、わたしたちは、思わず歌いださずにいられなくなるかもしれません。この世界は、あまりにも美しく、驚きと感動に満たされているのです。これらの作品との出会いが、皆さんの癒しと快復のための力となるよう心よりお祈りさせていただきます。
カトリック司祭
片柳 弘史 氏
医療の場を、こころの通った温もりの感じられる人間らしい空間に近づけようと、2019年夏から17名の美術家と行ってきた「びょういんあーとぷろじぇくと19ー23」は、今回、最終章を迎えます。
途中、コロナ禍により、会えない、触れないといった経験から、切なくも離れることで深まった他者への思いがありました。それまで、あたりまえだった日常が、愛おしくかけがえのないものとして浮かびあがってくるようでもありました。
医療・福祉の場に芸術があるとはどういうことなのか。厳しい状況下にあっても活動を継続させていただけたことで、私たち美術家の中には、誰かを意識し祈るという行為に制作を重ねていく人も少なくありませんでした。
人は、個々ばらばらにあるのではなく、心の奥底に相通じる何かを持って生きているように思います。アートがお互いをよりよく知り、人と人との関係性を豊かにすることのひとつとして、社会全体で働いてくれることを願います。
ここまで当活動を導いて下さった全ての皆さまに、こころより感謝を申し上げます。
びょういんあーとぷろじぇくと代表
日野間 尋子
八子 直子
小林 麻美
安藤 文絵
札幌ライラック病院1階「待合室と通路」
2023年1月23日(月)〜3月31日(金)
12:00〜18:00